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松山地方裁判所大洲支部 昭和49年(ワ)1号 判決

主文

被告から原告に対する松山地方裁判所大洲支部昭和四一年(ワ)第一八号損害賠償請求事件の判決に基づく強制執行はこれを許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和四九年一月九日付でした強制執行停止決定はこれを認可する。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

主文第一、二項同旨の判決

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1.被告は、「被告は、昭和三八年一月六日、原告および訴外平田寅生連帯保証の下に、訴外亡松本道利に対し金一五〇万円を貸し渡したが、同訴外人は、右借金を弁済しないまま、昭和四〇年二月五日死亡し、その妻である訴外松本千年およびその子である訴外久保田浩子、同松本嗣弘、同松本典子がそれぞれその相続分に応じて右借金債務を相続承継したが、右相続承継人および右連帯保証人らは右各債務の履行をしない。」として、右相続承継人訴外松本千年外三名および右連帯保証人原告外一名を相手方として、松山地方裁判所大洲支部に右各債務の履行を求める訴(同庁昭和四一年(ワ)第一八号損害賠償請求事件)を提起した。

2.しかして、右連帯保証人原告外一名は、右訴訟の口頭弁論において被告主張の前記請求原因事実をすべて認めたので、同人らに対しては、右事実を極力争った右相続承継人訴外松本千年外三名とは弁論を分離して審理のうえ、昭和四一年一〇月二六日同人らに対する右各請求を全部認容する旨の判決(請求の趣旨記載の判決)がなされ、同判決は同年一一月一二日確定した。

3.ところが、前記松本千年外三名に対しては、審理が尽された結果、昭和四四年一二月三日に至り、同人らに対する右各請求を全部棄却する旨の判決がなされ、右判決につき、被告は同月一六日高松高等裁判所に控訴したが、その口頭弁論期日に当事者双方が欠席したことに基づき、昭和四五年八月二六日右控訴が取下げられたものとみなされた結果、同日右判決が確定するに至った。

4.しかるに、被告は、昭和四八年一二月七日に至り、原告に対する前記判決に基づいて、松山地方裁判所大洲支部に、原告所有の山林の強制競売を申し立て、その結果、同庁において右山林に対する強制競売開始決定がなされ、目下その手続が進行中である。

5.しかしながら、原告に対する前記判決は連帯保証債務を表示するものであるところ、その主たる債務は、前記のとおり、右判決確定後、その債権債務の当事者である被告と前記松本千年外三名との間において判決の既判力により不存在と確定し、もはや主たる債務者(相続承継人)である前記松本千年外三名は債権者である被告に対し主たる債務を履行する必要がなくなったのであるから、原告は、右連帯保証債務の附従性に基づき、請求異議の訴により、自己に対する前記判決の執行力の排除を求めることができるというべきである。しかのみならず、被告が、前記判決確定後七年以上を経過し、主たる債務が判決の既判力により不存在と確定したことを知りながら、前記のように、連帯保証人にすぎない原告所有の山林につき強制競売の申立をすることは権利の濫用でもある。

よって、原告は前記判決の執行力の排除を求めるため本訴請求に及んだ。

二、被告の答弁ならびに抗弁

1.請求原因1ないし4の各事実はいずれも認める。

2.しかしながら、前記訴訟に係る事案は、被告が訴外亡松本道利の代理人と称する訴外平田寅生に対し、同訴外人および原告をその連帯保証人として、金一五〇万円を貸し渡したところ、同訴外人には右代理権がなく、右は無権代理行為であったが、同訴外人と訴外亡松本道利との従前の関係等から表見代理が成立する場合であったから、右表見代理の主張立証を尽せば、前記松本千年外三名に対しても勝訴しうる事案であったが、たまたま訴訟遂行の方法を誤りこれを尽さなかったために、前記のとおり敗訴の結果を招いたにすぎないものであり、そうであるからこそ、原告や訴外平田寅生は、前記訴訟において、連帯保証人としての責任を素直に認め、「現在手許不如意で全額を一時に支払うことができない。」旨述べて結審となり、前記のとおり被告の勝訴判決が確定したものである。

ところで、同一事実関係であっても、判決の結論が背反することは、既判力の相対性からして当然ありうることであり、とくに本件事案の場合は、前記のように訴訟遂行の方法に問題があったがために、原告外一名に対する判決と前記松本千年外三名に対する判決とでは逆の結論を招来してしまったのであるから、何ら異とするに当らない。原告主張の保証債務の附従性の理論は本件の場合には全く関係がなく失当であるばかりでなく、本件事案において、原告が前記松本千年外三名に対する判決を援用して自己に対する前記確定判決の効力を否定せんとするのは権利濫用的言分であって許されない。

理由

一、請求原因1ないし4の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、ところで、保証債務は、連帯保証債務を含めて、いわゆる附従性を有し、その主たる内容として、保証債務が成立、存続するためには主たる債務が成立、存続することを要し、また、保証債務の態様を主たる債務のそれより重くすることはできず、後に主たる債務のそれが軽い方向に変更されたときは、保証債務もこれに応じて当然その態様を変更するといった性質を有するものであるから、主たる債務者と債権者との間において判決の既判力により主たる債務の不存在が確定し、もはや主たる債務者が債権者に対して右債務を履行する必要がなくなった場合においては、保証人は、保証債務の附従性から、債権者に対し、主たる債務者が獲得した右勝訴判決を援用して、その保証債務の履行を拒絶しうべきものであり、そして、本件のように保証人が敗訴の確定判決を受けた場合においては、右履行拒絶の事由が右判決の基礎となった事実審の口頭弁論終結後に生じたものであるときは、右事由を原因とする請求異議の訴により、自己に対する右確定判決の執行力の排除を求めうるものと解するのが相当である。

そこで、右解釈論を前提として原告の本訴請求の当否を考えるに、前項確定の事実関係の下においては、原告は、その連帯保証債務の附従性により、前記松本千年外三名が獲得した前記確定判決を援用して、請求異議の訴により、自己に対する前記確定判決の執行力の排除を求めうるものというべきである。

なお、被告は、原告がその連帯保証債務の附従性により前記松本千年外三名が獲得した前記判決を援用することが権利の濫用として許されない旨をも併わせて主張するものの如くであるが、その主張事実をすべて前提とするも右権利濫用の抗弁を採用することができないし、その他原告の右行為を信義則上許されないものとするに足りる特段の事由の主張立証はない。

三、してみれば、原告の本訴請求は結局正当というほかないから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の認可およびその仮執行宣言につき同法第五四八条第一、二項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

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